MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

農とまちづくりのコラボレーション(国分寺市・こくベジプロジェクト)

国分寺市は、東京都の中心(重心)に位置しており、大部分は武蔵野段丘上の平坦地です。市内には、およそ300年前の新田開発から続いてきた農家が多く残っています。「こくベジプロジェクト」とは、そんな国分寺市の農畜産物「こくベジ」をPRしたり、国分寺市内の飲食店にこくベジを提供したりすることで国分寺市の活性化を促進させることを目的とした活動です。

今回は、こくベジプロジェクトの運営に携わりながら、国分寺市内にある2つのカフェ「おたカフェ」と「ディアマンcafe&diner」の運営をしている高浜洋平氏にお話を伺ってきました。どのような方法、そしてどのような想いで、国分寺市の農業に携わっているのでしょうか。

空き地利用の可能性から生まれた「おたカフェ」

高浜氏が国分寺の農業に関わるようになったきっかけは、今から12年前まで遡ります。当時、高浜氏は都市の街中に空き地が多く点在していること、地域に根差したお店が減り、コンビニなどの営利目的のお店が増えてきたことに気づきました。その気づきから、空き地を上手く利用して、チェーン店ばかりの画一的な街を改善できるかもしれない、と高浜氏は考えました。そこで、環境問題やまちづくりを研究している東京経済大学の福士正博教授と協力して、国分寺市役所に空き地でキッチンカーを開くことを提案しました。市役所はその提案に賛同して下さいました。そして、「おもてなし事業」という市の事業の一環として、現在のおたカフェがあるお鷹の道で、「おもてなし屋台」と呼ばれるキッチンカーが毎週日曜日に始まったのです。「おもてなし屋台」は地元の良いものを紹介するというコンセプトのもと、国分寺産の野菜を使った料理や、地元の名産品を販売していました。お鷹の道は森に囲まれ、湧水もある自然豊かな場所です。12年前は人通りが全く無く、お客さんも全然来ませんでしたが、口コミなどで広まり、「おもてなし屋台」は徐々に知られるようになりました。事業を始めてから2年後、「おもてなし屋台」を開いていた場所の目の前の空き家が市の所有だったことから、空き家活用の検討委員会が開催されました。そして、その空き家を改装して現在のおたカフェが誕生したのです。

自然豊かな場所にあるおたカフェ。

地場野菜を様々なカタチで利用!

おたカフェの料理に使う野菜を市内の農家さんから仕入れるうちに、高浜氏は農家さんの悩みを聞くようになりました。当時の農家さんの悩みのタネの1つだったのが、余った農産物の廃棄です。例えば、トマトの最盛期には他の農家さん達も同様にトマトを出荷するので、大量のトマトが売れ残り、畑に廃棄せざるを得ないということです。そのような状況を改善するために、余った農産物をおたカフェで加工品として販売するようになりました。具体的には、市内の農家で作られたイチゴを加工してジャムにします。その際に、そのイチゴを作った農家さんと農園の名前が掲載されたラベルジャムの瓶に貼ります。そうすることで、農家さんと消費者の間に関係が生まれます。この取り組みが農家さんの間で好評となり、市内各地の農家さんから農産物をたくさん仕入れるようになりました。その後、おたカフェで加工できるキャパシティーは限界になり、高浜氏は地場野菜を使うことをコンセプトにした専門のお店を立ち上げることにしました。それが、現在のめぐるみカフェなのです。

地場野菜を使った料理を楽しめるめぐるみカフェ。

こくベジ便で地場野菜を飲食店へ

こくベジプロジェクトに当初から関わっていた 高浜氏は、「こくベジ便」という市内の農家さんから仕入れた農産物を市内の各飲食店で使ってもらう流通の仕組みを考えました。そこで、先ほど紹介しためぐるみカフェに加え、その周辺の飲食店6店舗で集荷と配送を実験的に始めました。飲食店と直売所の距離はそれほど近くなく、流通面での問題が最初にネックになったといいます。実験的に農産物を仕入れている時期は、めぐるみカフェに一旦仕入れた後に他の飲食店に配っていたそうです。配られた農産物は各飲食店のメニューとして提供されました。実験的に集荷を始めて2,3か月経つと「同じ品種の野菜でも農家さんによって特徴があって面白い。」「地域の飲食店どうしでつながりができる。」などという好評をいただくようになりました。そのような良さから、他の飲食店や国分寺駅近くのセレオでもこくベジプロジェクトの農産物を取り扱うようになりました。このような経緯で、こくベジプロジェクトの農産物は国分寺市中に広まっていったのです。

こくベジの紹介ポスター。国分寺市の様々な場所に掲示されています。

「農」を通じてより良い「まち」にしていくために

サラリーマンとして働くかたわらで、こくベジプロジェクトでの活動やおたカフェ・めぐるみカフェの運営を手掛ける高浜氏。その原動力はどこからくるのでしょうか。「何かをやったら『まち』がより良くなるのではないのだろうか。自分には何ができるのだろうか。」という信念のもとで今まで活動してきたと高浜氏はおっしゃっていました。実際に、こくベジ便のおかげで市内の農家さんが抱える余剰野菜の量は大幅に減少しました。加えて、こくベジ便に登録している飲食店の店員さんたちと出荷している農家さんたちを集めて交流会などのイベントを開くことで、生産者と消費者の繋がりが大幅に良くなりました。

高浜氏は、「農」を中心とした様々なアプローチで、より良い「まち」にするための活動をしているのです。

おたカフェの店内の様子。アットホームで落ち着く雰囲気。
おたカフェの入り口はこの看板が目印。ぜひ訪れてみてください!


こくベジプロジェクト プロフィール

小辻 龍郎

アグリドットトーキョー編集部。元々農業とはあまり縁がない生活をしていました。農業や食、自然の分野で世の中をより良くしていきたいと思い、大学に入学してから農業サークルなど農業に関する様々な活動に取り組んでいます。都市農業を通じて農業の現場や課題が身に染みて実感中。最近ハマった野菜はトウモロコシ。

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