内藤とうがらしプロジェクトの最終目標はなにか? 中編 (新宿区・内藤とうがらしプロジェクト) 

内藤とうがらしプロジェクトの最終目標はなにか? 中編 (新宿区・内藤とうがらしプロジェクト) 

agri.TOKYO編集部では、「内藤とうがらしプロジェクト」リーダーの成田重行氏を直撃取材しました。全3回にわたってその活動をご紹介しています。

前編はこちらから。

とうがらしで変える「生活の場としての新宿」
~新宿の街をどう変えていくか。「とうがらし」を選んだ深い理由~

それでは、内藤とうがらしプロジェクトでは新宿の街をどのように変えていこうとしているのでしょうか。そして、なぜ伝統野菜「内藤とうがらし」を切り口としているのでしょうか。プロジェクトが目指しているのは、前編で述べた3つの社会課題を解決し、新宿を「子どもたちが誇れる街」「生活者のコミュニティのある街」「多様な人々が関わり合う街」に変えていくことです。そしてその目標には、内藤とうがらしの持つ様々な特徴や歴史が密接に結びついています。

①新宿を「子どもたちが誇れる街」に
~歴史・伝統の原点としての内藤とうがらし~

新宿の街は、そこに住む人々が「住んでいる地元として」誇りを持つことができない街でした。確かに世界的な大都市ではあるものの、高層ビル群のイメージや、歌舞伎町の繁華街のイメージからは、人間が生きているという実感は湧きにくいです。子どもが大阪の友だちに「新宿に住んでいる」と話しても、「人なんか住んでいるわけないでしょ」と揶揄されることさえあったといいます。プロジェクトでは、このような状況を変え、子どもたちにとって「自分たちが住む場所」「地元」として誇れる街にしたいと考えています。

新宿の高層ビル群。

内藤とうがらしは、このための一つの大きな理由になります。そもそも内藤とうがらしは、江戸時代、新宿内藤町で盛んに栽培されていた作物であり、それが、往時の江戸の市民の食生活を支えていました。このような歴史は、新宿という街に根付く一つのアイデンティティになりえます。さらに、プロジェクトでは子どもたちに自ら興味を持って内藤とうがらしの歴史を調べてもらい、イベントへの参加や壁新聞の作成などの主体的な活動を促しています。大人が価値観を強引に押し付けるのではなく、子どもたちが自分自身の言葉で新宿の街について語れるように促すように努めています。

内藤とうがらしが栽培されていた新宿内藤町にある都立新宿高校。生徒が総合学習の時間で内藤とうがらしの栽培に取り組んでいる。
②新宿を「生活者のコミュニティのある街」に
~とうがらしが繋ぐ「生活の面白さ」~

これまで、新宿では生活者のコミュニティが分断されていました。34万人もの住民が住んでいながら、その横の繋がり、とりわけ「家庭」同士の付き合いは皆無だったのです。そこで、プロジェクトでは生活者のコミュニティの輪を作り、広げていきたいと考えています。

このための取り組みが、内藤とうがらしの料理教室の開催です。四谷図書館では、毎年秋に地元の主婦に向けた料理教室を開催しています。定員20名に対して4倍ほどの応募がある人気のイベントです。また、学習院女子大学、桜美林大学、新宿高校など、近隣の大学・高校と連携した料理教室も開催しています。例えば桜美林大学で検討したテーマ「とうがらしの出汁でご飯を炊こう」を、実際に料理教室で地域の奥さんたちに伝える取り組みなどが行われています。

これらのイベントは、単なる料理教室ではありません。内藤とうがらしは、赤い実だけではなく未熟の青い実(青とうがらし)、葉や茎、根まで食べることのできる作物です。例えば葉っぱは香り付けに利用でき、茎と根は細かく刻んでほうじ茶にすることができます。このように普通であれば捨ててしまう部分も余すことなく全て使うことで、どのような料理が可能になるか考えるところに独特の面白さがあります。さらに、辛さが美味しさを作り出すメカニズムの一つになっているなど、内藤とうがらしには「美味しさの科学」として説明できることが溢れています。このような食べ方・味覚などに代表される「生活の面白さ」は、料理教室の参加者同士での交流や、家庭に話題を持ち帰ったあとの会話のきっかけとなります。これにより、コミュニティの輪が広がりやすくなっています。

近隣の高校・大学の生徒・学生が育てた内藤とうがらしが、伊勢丹新宿店の屋上に展示されていた。
③新宿を「多様な人々が関わり合う街」に。
~世界の架け橋となる「とうがらし」~

新宿は数多くの外国人が暮らす多文化共生の街です。例えば大久保小学校では、4年生の約半分が外国籍の子どもたちです。外国出身の人々のなかには飲食店で働いている人も多く、インドネシア、インド、中国、韓国、ベトナム、イタリア、フランス、チュニジアなど、30ヶ国以上の料理店があります。

これまで、これらの料理店と地域住民との間には大きな断絶があり、地元に住む日本人との交流は殆ど行われてきませんでした。新宿に住む人々は異国の料理店には警戒してなかなか近づかなかったうえに、料理店を運営する人々も地域のことは殆ど知らなかったためです。

しかしながら、これだけの数と種類の料理店があることは、本来は地域の宝であり、地域づくりの大きなチャンスになりうるはずです。内藤とうがらしプロジェクトではこの認識のもと、とうがらしをテーマに、地域の人たちと各国料理店の人たちを結びつけて新たな多文化共生の形を創り出そうとしています。

とうがらしはそもそも、世界の幅広い地域で料理に使われている食材です。韓国ではキムチの赤として使われ、イタリアではパスタの香辛料として幅広く使われ、スペインではタパスの食材になっています。このため、内藤とうがらしは、国を超えた共通のテーマにすることができます。実際に、地域の人たちと各国料理店の人たちが一緒に参加するイベントを開催しており、料理店の人には「内藤とうがらしを使って料理を出してください。あなたの国・地域の料理では、こんなふうに食べていると教えて下さい。」と伝えているといいます。これにより、とうがらしを介して人々の新たな関わりを生み出すことができます。

また、とうがらしは、宮廷料理や貴族の食べる料理にはあまり使われず、どちらかといえば庶民の料理の食材となってきました。赤ワインや肉など、赤い色の食材をふんだんに使えた王族・貴族とは異なり、庶民の食卓には赤色が乏しかったことが理由だと言われています。内藤とうがらしも例に漏れず、江戸のファストフードとして広く人気を集めたぶっかけそばの薬味として、庶民の慌ただしい毎日を支えました。世界中で庶民に愛されたとうがらしは、その色と辛味で彼らを元気づけ、時に励ます役割も果たしてきたのではないでしょうか。外国人を含む多様な人々がごった煮となって生活する現代の新宿にとっては、このような食材であるとうがらしがピッタリの存在です。内藤とうがらしは今、新宿の街に暮らす人々を、時代を超えて元気づけようとしているのです。

内藤とうがらしを使用した加工品の数々。内藤とうがらしフェアでは調味料だけでなく、お惣菜やお菓子など数十種類の加工品を楽しむことができた。

次回はいよいよ最終回です。内藤とうがらしプロジェクトリーダーの成田重行氏の想いに迫ります。


後編はこちらから。

内藤とうがらしプロジェクト プロフィール

公式ホームページ:https://naito-togarashi.tokyo
公式Facebook:https://www.facebook.com/togarashinet/?m2w

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