MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

「人」から考える酪農(千代田区・パソナグループ 大手町牧場)

東京駅前にある牧場

 東京駅から徒歩5分ほどで気軽に訪れることが出来る牧場があると知っていますか。初めて知る方も多いと思いますが、実は総合人材サービスのパソナグループ各社が集結したJOB HUB SQUAREの13階に小さな牧場があるのです。外から見ると普通のビルですが、施設内に入ると気持ちよさそうに歩く動物たちを見ることができ、大都会東京の中心で動物を身近に感じることができるのです。

ビル街のど真ん中にある「大手町牧場」。

 この「パソナ大手町牧場」は、パソナグループの子会社で京都北部の西日本最大級の道の駅を手掛ける株式会社丹後王国が運営をしており、地方創生に向けて地域産業の担い手となる酪農・観光牧場分野の人材を育成し、酪農・食育を学ぶことができる施設として誕生しました。平日は100名程度、土曜になると300名ほどの人々が、この牧場を訪れているそうです。牧場には、酪農に関わりのある牛やヤギ、食育を学ぶきっかけとして鳥骨鶏やフラミンゴなど、約60頭羽の動物が飼育されています。また、動物を見ることだけでなく、併設されているカフェスペースでアイスクリーム作りやバター作りなどを楽しむこともできます。さらに大人や酪農に興味がある人に対しては食育講座や酪農セミナーなども開催されており、「酪農」について学びを深めることが出来るのです。

パソナ大手町牧場の動物たち。エサやり体験もできます。

人材会社が「酪農」に力を入れる理由

 パソナグループが酪農分野に力を入れている背景には、「社会の問題点を解決する」という企業理念があります。現在の日本の農業・畜産業界はEPAやTPPなどの発効によりその立場が揺らいできています。その影響は食に関わる広い範囲の日本企業にも大きな影響を与えることになるでしょう。こうした社会の課題に対して、パソナグループは牧場などの施設を自社で持ち、都会で生活する多くの方々に農業・畜産業に興味を持ってもらうことによって、人材を育成し日本の地域経済を支えたいという思いがあるそうです。

 こうした取り組みの一環として、パソナグループでは、現在のビルに移転する前の本部ビルでビルの壁面やオフィスの様々な場所で植物を栽培していたほか、1階のロビーには田んぼまであったそうです。そして、現在のビルに移った際にパソナ大手町牧場を開設し、「酪農」の取り組みをスタートしたそうです。この理由として、酪農・畜産業界の深刻な人手不足が挙げられます。どのくらい深刻なのか、みなさんの周りの人の就職先から想像してみてください。みなさんの周りには「来年から酪農の仕事を始める」という人はどのくらいいるでしょうか。近年、農業については農業女子などのブームもあり、新規就農をする人や実家の畑や田んぼを継ぐという人も周囲にいるかもしれません。しかし、酪農・畜産に限ってみるとほとんどいないでしょう。こうした現状が酪農・畜産業界の人手不足に密接に結びついているのです。酪農・畜産業界が深刻な課題に直面していること、そして酪農家の方々も一人でも多くの人材を求めているという状況があり、酪農をPRすることのできる牧場を運営することを決めたそうです。

丹後王国取締役副社長の宮﨑さんから日本の酪農についてお話をお聞きしました。
以前のビルで取り組んでいた田んぼの一部が展示されています。

都会のビルにある牧場だからこその特徴と魅力

 この牧場の大きな特徴は、来場者層の幅の広さです。駅から近く、段差もほとんどない室内なのでベビーカーに乗っている子どもを連れて来場することが出来ます。そのほかに、社員の家族や、取引先の方が来社された際にも見学されているそうです。この牧場では、動物を見るだけではなく、動物の生態や酪農・食育についてのクイズに挑戦することもできるなど、様々な展示があるため幅広い方々が楽しむことができます。見学には原則、HPからの事前予約が必要ですが、普段動物園には足を運ばない人々もこの牧場を通じて酪農について知ることができる良い環境となっています。

 また、都会のビル群に囲まれた場所のため、この牧場ならではの工夫された設備も多くあります。特に驚くのは窓の端から端まで伸びる大きなダクトによる空気の循環です。なるべく外部と近い環境にするため、空気を循環させており、室温もエアコンを設置せず外気と同じ温度にしているそうです。動物が本来住む環境に近づけるにはこうした工夫が必要なのだと分かりました。また、こうした配慮を知ると人間がいかに人工的な空間にいるか考えさせられました。このほかにも次亜塩素酸のミストを24時間散布して除菌・消臭をするなど、動物や周辺環境に配慮した工夫がされています。

次亜塩素酸ミスト散布の様子。

 牧場施設内や併設されているカフェスペースで開催されるイベントも魅力の一つです。東京駅前にあることもあり、普通の牧場ではあまり開催されていないイベントも企画されています。カフェスペースで行われているアイスクリーム作り体験・バター作り体験(それぞれ週一回開催)では食への知識を深めながら、乳製品を手作りすることができます。酪農セミナーでは実際に酪農をしている方を招き、牛の出産シーンの紹介や雄・雌それぞれの一生などの説明があり、酪農の現場を学ぶことが出来ます。また、農林水産省の方を招いたセミナーでは、日本の酪農の現状やTPPについてなど産業としての酪農を学ぶことが出来ます。こうした幅広い層の人々が楽しめるイベントがあることで、より多くの人に酪農を知ってもらう機会が設けられています。

子どもでも楽しめるクイズ。

リクルーティングからみた酪農

 施設内のイベントでは各地の酪農関係者が集まり、リクルーティングフェアも開催されています。前回は40名ほどの方が参加したそうです。こうした酪農の情報提供・共有ができる場があることで、酪農への就職をしやすくなると考えられます。

 これからの日本では少子高齢化が加速し、農畜産業はより大変な時期を迎えます。このような時代の流れのなか、農家・酪農家・農協などそれぞれが単独で力を入れても人材確保が難しい状況になりつつあります。そうした中で、企業も協力していくこともあって良いのではないでしょうか。互いに協力しあうことで、それぞれの課題を解決し、より豊かな社会を築けると考えます。もちろん、この牧場ができることは酪農業界全体から見れば小さなことかもしれませんが、幅広い年代の沢山の人に「酪農に興味をもってもらう」ことで酪農業界の将来は変わってくるのではないかと感じました。この牧場に来た子どもの将来の夢に「動物を育てる仕事」が入ってくれると良いなと期待します。

パソナ大手町牧場 プロフィール

出口 綾乃

アグリドットトーキョー編集部。東京農業大学4年。農業経営専攻。大学入学を機に農業と関わるようになりました。また1年次から農業サークルぽてとに参加しており、農業と関わりのある生活を送っています。サークル活動を通し、野菜作りや、農業関係者との繋がりがてでき、農業の面白さに気づきました。農業を通して仲間とゆるく楽しい時間を過ごせることが農業の良さだと感じています。

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