MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

赤坂見附から東京農業を発信。東京農業の新拠点「東京農村」インタビュー(港区赤坂・東京農村)

 赤坂見附駅から徒歩2分。多くの人で賑わう繁華街の真ん中に、「東京の農業」を味わって、知って、繋がれる拠点があることをご存知でしょうか。その名も「東京農村」。東京農村は、一般社団法人M.U.R.A.が運営する、東京都港区赤坂にある5階建てのビルです。ここでは東京の食材を使った料理が楽しめるほか、東京の農・食に関する幅広い情報に触れることもでき、この分野で活躍する熱い皆さんと繋がりをつくることができます。

 東京農村は2018年6月に開業しました。1階から3階は東京の食材を使った飲食店(東京野菜キッチンSCOP・酒肴ほたる・nomuno)、4階には東京の食・農ベンチャーが集うシェアオフィス「Root office」、そして5階にはシェアキッチン「Root kitchen」と室内菜園が設置されています。

「東京農村」は5階建て。「SCOP」の赤と白のテントが目印です。
1階から3階にこだわりの飲食店が、4階・5階にシェアキッチン・シェアオフィスがあります。
1階の「東京野菜キッチンSCOP」は(株)エマリコくにたちの直営店舗。東京の旬の地野菜を使ったメニューが自慢です。

 東京農村の設立のきっかけは、2016年の冬、国分寺市でイチゴやウドの栽培を行っている国分寺中村農園の中村克之さんからの提案でした。国分寺中村農園は道路建設により農園の縮小を余儀なくされ、その代替地として赤坂の土地を取得しました。中村さんはこの土地を、農家の連携により東京農業の新たな発信拠点としたいと考え、国立市で「しゅんかしゅんか」などの直売所を経営する株式会社エマリコくにたちの菱沼勇介さんに話を持ちかけたそうです。

 今回は、この「東京農村」の立ち上げに関わった、一般社団法人M.U.R.A.代表理事・農業デザイナーの南部良太さん、株式会社エマリコくにたちの菱沼勇介さん、コーディネーターの鈴木幹雄さんの3名にお話を伺ってきました!

南部良太さん(一般社団法人M.U.R.A.代表理事・農業デザイナー)


 南部さんは、農業デザイナーとして、国分寺エリアを中心に精力的に活動されています。6年前に国分寺に引っ越してきたとき周りにあった農園に感動し、仕事であるデザインを通じ関わりたいと思うようになったそう。そんなとき参加したのが、国分寺中村農園の中村さんが主催する収穫体験でした。南部さんはその場でロゴ・パッケージデザインをしたいと売り込み、そのことをきっかけに、「農業デザイナー」という肩書で、農に関わる様々なデザインを手がけるようになりました。

 転機となったのは、国分寺野菜「こくベジ」の立ち上げで国分寺市役所から声をかけられたことでした。アートディレクターとしてデザインの仕事を担うだけでなく、野菜の集荷・配達も自ら担い、最初は2~3軒の農家から野菜を集め、10軒程度の飲食店に運んだそうです。現在では農家数は30~40軒、飲食店数は100店舗を数え、都内でも珍しい地産地食の取り組みが地域に根付きつつあります。

 南部さんは、こくベジの取り組みを通じて地域の飲食店の方々の変化を感じています。これまで地元に畑があることを知らなかったお店の方々が、近い場所に畑があることに気づき、そこから農家さんとの新たな関わりができるようになってきているのです。南部さんは、このように、農業を一つの手段として、地域の人と人とを繋げていきたいと考えています。今後も、地元の人たちを巻き込んで、一過性でなく継続性のあるものにしていきたいといいます。

 東京農村ではデザイナーという立場を活かしてディレクションを担当しています。2019年4月からは一般社団法人M.U.R.A.の代表理事に就任し、5月1日には農業生産者や飲食店、料理研究家など様々な会員同士のマッチングを重視した東京農業を都心で発信していく会員組織「東京農村クラブ」を設立しました。

 東京農村のビジュアルや名称も、南部さんが作ったものです。ロゴは、農村を想起させるわらぶき屋根とひっくり返した器がモチーフ。「農と食を結ぶ場所」というキービジュアルです。タイポグラフィーは、柔らかさと力強さを表現しました。南部さんがイメージを担当した東京農村のイラストは、赤坂見附の街を背景に東京農村ビルを描いています。赤坂見附という建物・文化・お祭りに歴史の長い地域で、昔の人達と今の人達が農に関わりながら生きていくことをイメージしています。このイラストには、日本や東京の農業をここから発信していこうという意気込みが詰まっています。

南部さんがイメージを担当し、イラストレーターの方が作成した東京農村のイラスト。(東京農村ホームページより)

菱沼勇介さん(株式会社エマリコくにたち代表取締役)

 菱沼さんは、国立市・国分寺市・立川市を中心としたエリアで東京野菜を流通・販売するベンチャー、株式会社エマリコくにたちを経営しています。大学時代にまちづくりに関わった経験から、東京の「まちなか農業」に興味を持ち、2011年にエマリコくにたちを創業、国立駅前に直売所「しゅんかしゅんか」をオープン。以来、同社では毎朝100軒あまりの農家さんから野菜を自社便で直接集荷して販売しています。

 中村さんの想いを受けて東京農村の運営を担うことになった菱沼さん。創業前の会社員時代には、「建物」に関する仕事がしたいと不動産関係の会社に勤めたものの、配属は経理部門でした。今回、東京農村の取り組みで初めて実際に建物に関わることができ、大きなモチベーションになっているそうです。

 菱沼さんはなぜ「東京の」農業が大切だと考えているのでしょうか。昨今、学問的には、都市の農地が新鮮な生鮮物の供給や景観維持・防災などの「多面的機能」という価値をもっていると指摘されることが増えてきました。しかし、菱沼さんが着目しているのはこれとは少し異なる2つの観点です。

 第一に、都市の農地を農地として残すことができれば、過剰な住宅供給を抑制し、地域のゴーストタウン化を防ぐことができるかもしれないという点です。高度成長期以来、東京では郊外の農地や樹林地を転用して宅地化が進められてきました。現在でも、新築を好む人が依然として多いこともあって、この流れは止まりそうにありません。しかし近年は人口が頭打ちとなり、東京都内でも多摩地域を中心に空き家問題が深刻化しつつあります(※)。そこでこれまでの流れを断ち切り、農地を農地として残し活用していくことができないでしょうか。それができれば、過剰な住宅供給を抑え地域のゴーストタウン化を防ぐことができると、菱沼さんは考えています。

 第二に、媒介として「食」のもつ可能性です。学生時代に商店街活性化の活動に取り組んでいた菱沼さんは、当時の経験から、街の中の「食」が人と人とを繋ぐと考えています。近年、六次産業化や加工品開発の流れのもとで、農業者と加工業者・飲食店等が繋がって新たな商品をつくる取り組みが多くの地域で行われています。このような取り組みは、その収益や経済的な効果は必ずしも大きいとは言えません。しかしながら菱沼さんは、たとえ収益的に成功しなくても、長期的には大きな価値を持ち得ると考えています。同じ地域に暮らす幅広い立場の人が繋がりをもつことが、地域のまちづくりにとっては欠かせないからです。

 (※)多摩地域の空き家率は10.8%(2013年)となっており、全国平均の13.5%に比べると低い値となっています。しかし、多摩地域では深刻な高齢化が見込まれており、予測では2033年には28.8%が空き家となると予想されています。
参考:多摩信用金庫(2017)「多摩けいざい No.79」

鈴木幹雄さん(コーディネーター)


 鈴木さんは、JR中央線沿線の高架下や駅を運営する「JR中央ラインモール」の初代社長を務めた方です。西国分寺駅の再開発「nonowa西国分寺」のプロジェクトに携わっていた際、菱沼さんに改札前に産直野菜の店舗を出さないかと提案したことが東京の農業との出会いだったそう。その後JRを引退し地域の活動に軸足を移し生きていこうと考えていたところ、ちょうど菱沼さんから「東京農村」に誘われ、縁を感じて参画しました。

 JR時代から中央線沿線の地域の魅力に引き込まれ、東京農村の運営に関わる傍ら、地域に関わる活動に積極的に取り組んでいます。例えば、三鷹から立川のマチ、ヒト、モノ、コトを紹介するWebメディア「つぎの→」や、国立市谷保で地域の大人・子どもがともに関わりながら暮らすシェアハウス「コトナハウス」の運営に携わっています。今後は、これらの活動と農業の接点を探したいと考えているそうです。

 鈴木さんも菱沼さんと同じく、住宅供給が過剰になるこれからの時代に、中央線沿線に住んでいる人と畑を持っている人との関係性のなかで、農地がどのような価値をもつかということに考えを巡らせています。そのように考えると、今ある農地を後世につなぐことが地域の価値を高めていくことになると鈴木さんは考えており、その役に立ちたいといいます。 

東京農業のキープレーヤーが集まる「東京農サロン」

 東京農村では定期的に様々なイベントが開催されています。第一に、招待制のイベント「東京農サロン」です。東京農サロンは毎月第3水曜日に開催されています。農業ベンチャー、大企業、行政関係者などの都市農業周辺で活躍する人、各回およそ30名が集まって語り合う飲み会となっています。

 東京農サロンでは、流通、農産物のブランド化、生産緑地に関する法律、農業メディアといったトピックで、毎回ディープな議論が盛り上がります。食・農に実際に関っている方々の出会いの場となり、そこから新たな連携も生まれつつあるといいます。

「東京農サロン」は招待制。白熱した議論で毎回夜まで盛り上がる。

 第二に、「Root Cafe」です。こちらは東京農サロンをよりオープンな形としたもので、食・農をメインテーマに様々なゲストを招き、みんなでゆるく楽しみながら話す会のことです。名刺交換・情報交換をする時間・イベント後自由参加の飲み会もあるので、参加すると有意義な時間を過ごせること間違いなしです。

東京農村の目指すもの

 3人は、東京農村を食や農に関心を持つ人が集まる「リアルな拠点」にしたいといいます。インターネットが普及した現代、ただ情報を集めるだけであれば、決して難しくありません。しかしながら、東京農村のような現実の場所にいろいろな情報が集まっていれば、「ここに来れば情報がある」とさらなる人が集まってくるようになります。そこから新たな人の行き来が生まれ、新しい連携のきっかけになれば良いといいます。

 このために、東京農村では食や農に志を持っている幅広い人たちに来てほしいと考えています。国立市や国分寺市で取引関係のある限られた人たちだけでなく、違う地域の人や他の業種など、関心のある人が広く参加すれば、それだけ多くの新しい化学反応が生まれるに違いありません。

お3方とも、ときどきユーモアを交えながらも、真剣な眼差しで語っていただきました。

カンパイ!東京農村1周年大収穫祭

 東京農村では、2019年6月18日(火)~20日(木)の3日間、オープン1周年を記念したイベント「カンパイ!東京農村1周年大収穫祭」を開催します。このイベントでは、東京野菜や東京NEO-FARMERS!のマルシェが行われるほか、東京野菜を使ったぬか漬けワークショップ(18日)、スペシャル農サロン(19日)、東京野菜Bar(20日)などの企画も盛りだくさん。さらに、1階~3階の飲食店では期間中、限定メニューも楽しめます。

 東京農村をまだ訪問したことのない皆さん、ぜひこの機会に訪れてみてくださいね!!

カンパイ!東京農村1周年大収穫祭ポスター表

カンパイ!東京農村1周年大収穫祭ポスター裏

東京農村 プロフィール

  • 住所:

    東京都港区赤坂3-19-1

  • メールアドレス:

    akasaka@emalico.com

  • 公式ホームページ:

    http://tokyo-noson.com

  • アクセス:

    東京メトロ銀座線・丸ノ内線赤坂見附駅10番出口より徒歩2分

  • 一般社団法人 M.U.R.A. 電話番号:

    03-5797-7625

  • 一般社団法人 M.U.R.A. メールアドレス:

    ok.rootroot@gmail.com

  • 一般社団法人 M.U.R.A. 公式ホームページ:

    http://rootroot.jp

  • 備考:

    4F Root Office / 5F Root Kitchen
    スペースの利用やお問い合わせは一般社団法人M.U.R.A.まで。

森 柚香

アグリドットトーキョー編集部。津田塾大学学芸学部英文学科所属。大学入学後、農業とはあまり関わりの無い生活を送っていましたが、「農業サークルぽてと」に入会したことをきっかけに農業に興味を持ちました。趣味はダンスで、大学では「ぽてと」以外にベリーダンス部・ラーメン同好会に所属しています。アグリドットトーキョーでは今までの知識も活かしつつ、新しいことをどんどん吸収していきたいと考えています。

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