MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

地球と共に生きる(あきる野市・東京地球農園)

 立川駅から青梅線と五日市線を乗り継いで30分ほどの武蔵引田駅。東京都とは思えないほどの広大な畑と山々が広がっています。桜の舞う4月中旬、東京地球農園代表の阿部嘉明さん、NPO法人日の出太陽の家ボランティアセンター理事長の久保田武男さん、東京日の出武家屋敷通訳&コーディネーターの小林弘幸さんにお話をうかがってきました。

畑のすぐ近くには五日市線が走る。

東京地球農園の誕生

 東京地球農園設立のきっかけになったのは、30年ほど前に早稲田大学法学部に在籍していた奥田潤二さんでした。奥田さんは大学四年生の時に脳腫瘍ができたことをきっかけに、農薬や化学物質が健康に大きな害を与えていると考え始めました。そして、大学を中退し、千葉の農業大学で有機無農薬農法を学んだ後、タイに渡り二年間民間団体のプロジェクトに参加しました。帰国後、奥田さんはあきる野市で五年間無農薬の野菜栽培を行いました。しかしながら、その後北海道富良野に移住することになり、その想いを受け継いだ人々で2000年に「東京地球農園」が設立されました。設立当初はあたり一面栗林で荒れ果てていたそうですが、整備をしながら年々拡大していき、今では合計2000坪の土地を耕作しているそうです。

 「東京地球農園」という名前には、「地球と共にある」という思いが込められているといいます。東京地球農園はNPO法人日の出太陽の家ボランティアセンターによって運営されています。利益第一ではなく資源循環型農法にこだわって活動しており、農園体験の受け入れや知的障害者支援施設の生活支援などにも力を入れています。

広大な敷地が広がる。
畑の中で説明してくださる久保田さん。

多種多様な野菜・イベント

 東京地球農園では広大な敷地を生かして、様々な作物が栽培されています。レタスやジャガイモ、ねぎ、カブなど定番のものから、ひょうたん、ルバーブ、菊芋、こごみ、たらのめなど珍しい作物も見られました。栽培された野菜は、近くのイオンモール日の出「食の駅」で販売される他、知的障害者施設「日の出太陽の家」の給食に使われたり、都内のレストランに出荷されたりしています。

 また、野菜を実際に収穫し、生で食べることのできる収穫体験も随時行なっています。畑を見たことのない、自然体験をしたことのないなどの子どもたちにとって大変貴重な経験になることから、都内の親子の参加も多いそうです。畑は季節によって採れる野菜の種類も変わっていきます。実際に自分の手で土に触れ、野菜に触れることで四季を五感いっぱいで感じることができるのではないでしょうか。この収穫体験は大変好評で年間500〜600人ほどの方が参加されています。時には企業の社会貢献活動(CSR活動)と連携して従業員向けの農園体験を開催することもあるそうです。

 さらに、実際に畑の区画を借りて野菜づくりをやってみたいと考えている方は、月2,000円で東京地球農園体験会員となることができます。年間を通して楽しく農作業を体験したい方にはおすすめです。

きれいに色づく菜の花。

 東京地球農園では、他にも様々なことに取り組んでいます。その一つが運営母体である、日の出町内の知的障害者支援施設「日の出太陽の家」との連携です。この施設と共同で作業を行なっており、施設利用者の皆さんにとって、心身ともに良い影響を与えています。後述のようにEMボカシの製造にも施設利用者の方々が携わっています。また、日の出の家の敷地内には武家屋敷があり、忍者体験をはじめ様々な体験をすることができます。

知的障害者施設「日の出太陽の家」。
武家屋敷。様々な体験ができ、子どもや海外の方に大変人気がある。

資源循環型農法

 東京地球農園が最も力を入れているのが、資源循環型農法です。特に「EMボカシ」の製造は生ゴミを堆肥化し、それを使って野菜を栽培するという資源循環型農法が良い流れで行われています。「EM」とは、Effective Microorganismsの頭文字を取ったものであり、乳酸菌や酵母、光合成細菌などの人間にとって良い働きをしてくれる微生物の集合体を指します。EMボカシは、米糠にEM菌、糖蜜などを加えてタッパーに入れることで作ります。この製造には、日の出太陽の家の生活支援の一環として施設利用者の方々が関わっています。取材に行った際にも、EMボカシや、米糠の入った大きなバケツを見ることができました。

 EMボカシは地域のファーマーズマーケットで販売されています。生ゴミにEMボカシをふりかけると、生ゴミが発酵し、2、3週間で土に戻るそうです。東京地球農園のEMボカシは都心でも大活躍しています。例えば、大手町カンファレンスセンターのスカイガーデンでは、西武造園(株)のご協力のもと、このEMボカシを使った堆肥を庭園や水田で使用しています。

EMボカシ。
生ゴミにEMボカシをふりかけると、発酵がすすみ約2、3週間で土に戻るそう。

これからの展望

 今後の取り組みとして、久保田さんは「観光・環境・福祉など農業をあらゆるものと連携させていきたい」とおっしゃっていました。これが実現できた暁には資源だけではなく色んな意味での循環型農法が実現できるのではないでしょうか。

 「地球が誕生して46億年。暗黒の宇宙の中で奇跡の星として地球は誕生した。その中で生命が誕生し、自然とともに進化し、今の私たちがある。しかし、たった8万年前に誕生した生き物が地球を傷だらけにしている。美しい地球を子供たちに残すためにはどうしたらよいか、地球の大地を耕しながらみんなで考えていきたい。」というのが久保田さんの想いです。

 東京地球農園のさらなる発展に期待です。

東京地球農園 プロフィール

  • 住所:

    東京都あきる野市引田301-2

  • アクセス:

    JR五日市線「武蔵引田駅」徒歩10分

  • 電話番号:

    090-4456-3243 (担当:阿部さん)

  • 公式ホームページ:

    https://www.taiyonoie-vc.com/terrafarm/

吉野 飛鳥

一橋大学経済学部所属。群馬県出身で、幼い頃から農業が身近にある生活を送っていました。東京で一人暮らしを始め、農業サークルぽてとに入ったことをきっかけに都市農業にも興味を持ち始めました。自分を野菜に例えるとネギ。

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