MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

経営者として、地域に笑顔を生み出す農業を (三鷹市・冨澤ファーム)

吉祥寺駅から小田急バスに乗り、天神前のバス停で下車。そこから徒歩三分の場所、子どもたちの楽しそうな声が聞こえてくる保育園の隣に冨澤ファームはあります。今回は冨澤ファームの四代目、冨澤剛さんにお話を伺ってきました。

冨澤ファームは、東京都三鷹市にある栽培面積が80アールほどの農園です。ビニールハウスと露地で年間30種類ほどの野菜を栽培するほか、野菜の苗や江戸東京野菜の内藤トウガラシも育てています。生産した野菜は、庭先直売・JA直売所・学校給食・飲食店などにバランスよく出荷しています。ファームの軒先の直売所はコインロッカー式となっており、取材の日も地元の方が新鮮な野菜を求めて訪れていました。

コインロッカー式の直売所。お金を入れると扉が開いて野菜が買える仕組み。

東京で農業をしているということ

冨澤剛さんは今から17年前、28歳のときに農業を始めました。農家の次男として生まれ、歴史が好きだったことから社会科の教員を志していたときもありましたが、大学卒業後は会社への就職を選んだそうです。その後、お兄さんが農業を継がないことになり、ご自身としても一生できる仕事だと考えたことから家業の農家を継ぐことにしたといいます。

冨澤さんが育った頃はバブル真っ盛り。当時は現在とは180度違い、東京の農家への眼差しは非常に冷たいものでした。「地価が高い東京に農業なんてけしからん」「農家が畑を売らないから地価が高騰するのだ」などというバッシングは日常茶飯事でした。そんな子ども時代の悔しい経験が、農業や地域をもっと魅力的なものにしたいという強い気持ちのもとになっていると冨澤さんは話します。

周囲を住宅に囲まれた冨澤ファームの畑。

そんな冨澤さんが大きな転機になったと話すのは、15年ほど前に野菜ソムリエの講座を受講したことです。それまでは農業にはいいイメージは抱かれていないだろうと思っていたそうですが、意外と農業に興味を持ってくれる人が多いことを知り、自分の仕事に自信が持てるようになったといいます。さらに、野菜ソムリエをきっかけに都内の小中学校への給食の仕事が始まり、栄養士さんがファームを訪れてくれたり、学校での出前授業を頼まれたりするようになりました。いろいろな人との繋がりができるようになり、農業を通して地域の人を幸せにしたいとより強く思うようになったそうです。

周りを笑顔にするための農業

冨澤さんは、魅力的な農業を行って地域を幸せにするために、こだわりを持って農業をしています。具体的には、土作りのこだわり、農薬をなるべく使わない農法、子ども食堂や保育園の体験農園の取り組みです。まず、土作りについては、三鷹市内にある国際基督教大学のキャンパスの落ち葉や東京農工大学馬術部の馬糞を無償で回収して堆肥にするという取り組みをしています。また、農薬は虫を全て駆除してしまうものではなく、特定の虫にだけ作用するものを使ったりうまく天敵を利用したりすることで、環境に配慮した農業を行っています。

こだわりの堆肥。ふかふかでした。

子ども食堂や保育園の体験農園はほとんど利益は出ませんが、子どもが笑えば周りの大人も笑顔になるからということから取り組んでいます。子ども食堂には、形が悪く売り物にならない野菜を無償で提供しています。子どもたちの笑顔のために続けていることですが、この取り組みのおかげでファームのファンも増えたと冨澤さんは嬉しそうでした。保育園の体験農園は、園児や保護者の方、保育士さんから予想以上の反響があって、これも嬉しいことだと冨澤さんは笑顔で話します。

冨澤さんの取り組みはこれだけではありません。せっかく東京に農地があるのだから、もっと多くの人に活用してもらって楽しんでほしいと、BBQなどのレクリエーションもファームの敷地で定期的に開催しています。

経営者になって社会にいい影響を

「一生産者ではなく、経営者になりたい。経営者になって社会にいい影響を与えたい」冨澤さんはこう話します。冨澤さんが今考えていることとして、地元である三鷹市の商工・飲食店にファームで生産した農産物を活かしてもらうことがあります。そのことによってお店や街が活性化し、農産物の需要が増して、「売り手よし、買い手、世間よし」という三方よしのローカルな経済活動を構築したいと考えているのです。また、6次産業化にも取り組んでみたいと話していました。このような構想を抱く冨澤さんは、農業の他にも地域のお祭りや消防団などにも積極的に関わっています。

経営者としては、ご自身の取り組みに加えて、農業の担い手を育てたいという思いから将来の「農場長」を探しています。現状では、冨澤さんとご両親の三人でファームの仕事をしていて、高校の同期や、栄養士さん、飲食店のスタッフさんがお休みの日に手伝いにきてくれることもあるそうですが、それでもどうしても人手が足りないときも多いのだそうです。

冨澤ファームのこれから

多くの魅力的な取り組みをして、地域の人たちを笑顔にしている冨澤ファーム。しかし、心配事がないわけではありません。近年、道路にするために、農地の20パーセントに当たる20アールが収用されてしまい、農地が分断されてしまったのです。さらに、まだだいぶ先ですが、相続により農地が減ってしまうことも想定されています。また、農業は天候によって出来不出来が大きく左右されるもので、昨今の異常気象により冨澤ファームにも無視できない影響が及んでいます。このようななかでも、安定して収益を得ていきたいと冨澤さんは考えています。そのためにもますます魅力的な取り組みを続けていかなければなりません。

冨澤ファームを貫くように作られた道路。

近い将来、三鷹市の飲食店で、皆さんも冨澤さんの野菜を口にすることがあると思います。待ちきれない方は、ぜひ冨澤ファームを訪れてみてはいかがでしょうか。コインロッカーで売られている美味しい野菜たちがあなたをお待ちしていることでしょう。

直売所に並んだキャベツ。いまにも飛び出して来そうですね。
江戸東京野菜の内藤唐辛子。内藤唐辛子プロジェクトの契約栽培を行っているそうです。
これは何だか分かりますか?正解はアスパラガス。葉はこんな大きく育つんですね。
直売所の前で冨澤さんと一緒に。熱意のこもった取材対応をいただきました。

冨澤ファーム プロフィール

  • 公式Facebookページ:

    https://www.facebook.com/tomizawafarm/

  • 住所:

    三鷹市北野3-10-10

  • アクセス:

    JR吉祥寺駅から小田急バス 吉02系統 千歳烏山駅行 バス乗車、天神前下車徒歩3分。または京王線千歳烏山駅から小田急バス 吉02系統 吉祥寺駅行 バス乗車、天神前下車徒歩3分。

  • 営業時間:

    営業時間9時~19時。不定休(年始)

森田 慧

株式会社ぽてともっと代表取締役社長。
一橋大学在学中に市民農園で野菜づくりをする学生サークル「農業サークルぽてと」を設立し、代表として80名のメンバーとともに畑活動にいそしみました。このときの経験から、同年代の若者や都市住民と農業の現場を繋げることに可能性を感じ、2019年、(株)ぽてともっとを創業。野菜と結婚するなら大根。

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