MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

【世田谷区・吉実園】世田谷の複合農家が取り組むユニークな農業

 世田谷区上祖師谷にある複合農家、吉実園。東京都の区部にも関わらず広大な土地で、造園業と野菜栽培、養鶏、養豚が営まれています。ユニークな方法で吉実園を経営している吉岡幸彦さんに取材しました。

造園農家から複合農家への変遷

 吉実園は吉岡さんの祖父の吉岡実さんが造園農家として創業したのが始まりです。実さんは幼少期から植木に関する仕事をしていたのがきっかけで第二次大戦後、戦地から復員して本格的に造園農家を始めました。戦後の高度経済成長期の波に乗って経営規模を徐々に拡大していき、土地も拡大していきました。私も吉実園を訪れた際に道路を囲うようにして農地が存在している風景を目にして、その広大さを実感しました。

吉実園の園内の様子。

 三代目である吉岡幸彦さんは、学生の頃から父の手伝いとして吉実園に携わっていました。その甲斐あってか、父から後を継いだ時は造園に関する腕前は一人前と呼ばれるようになっていました。その後暫くは造園一筋で仕事をしてきましたが、時代が変わるにつれて造園だけでは経営していくことは難しいと考え、約25年前に現在のような複合農家になったといいます。広大な吉実園の土地を利用して、造園業の他に、養鶏、養豚、農産物の生産を行っています。

木々がたくさんそびえる吉実園。

品質に対する徹底したこだわり

 先にも述べた通り、吉実園では造園業の他に養鶏、養豚、野菜栽培も行っています。一番私が驚いたのが、取材前に吉岡さんが農園の中を案内してくださった際にたくさんの鶏が放し飼いにされていたことです。放し飼いをすると、鶏は雑草を食べるので雑草除去にかかるコストを削減することができ、かつ鶏自身のストレスも減少して美味しい有精卵が採れるようになるので、吉岡さんにとっては一石二鳥になるのです。現在飼育している品種は、アローカナ、黒翡翠鶏(くろひすいどり)、もみじ、烏骨鶏(うこっけい)の4品種で頭数はそれぞれ500頭、20頭、250頭、20頭です。

たくさんの鶏たち。

 特にアローカナという品種は青い殻の卵を産むことで知られています。アローカナは南米原産で、品種改良された結果青い殻の卵を産むようになったそうです。実際に青い殻の卵を見せてもらったのですが、薄い青色が殻全体に見ることができました。

アローカナの青い殻の卵。少し神秘を感じました。

 豚の品種は、前まではTOKYO Xという品種を飼っていましたが、今では一般的な品種を飼育しているそうです。ここでも工夫が施されており、現在飼っている豚の餌はTOKYO Xで使われていた餌と同じものが使われています。この餌の主成分は小麦で、通常の餌と比べ消化しやすく臭いもほとんどしないそうです。そのため、住宅が多い中でも飼育がしやすくなるのです。野菜の畑はアローカナが産卵する為に使われる小屋の近くにあります。ここで栽培されている野菜は化学肥料も農薬もほぼ使わずに栽培されており、材木をチップにしたものを原料した堆肥が主に使用されています。このように吉実園の鶏や豚、野菜は素材本来の良さを十分に活かして育てられているので、とても品質が良いのです。

堆肥を作っているところ。今回訪れたときは豚はいませんでした。

多くの人々から注目される農家に

 前述の通り吉岡さんは、吉実園の鶏、豚、野菜に対して徹底したこだわりを持って育てているので、多くの人々から好評を得ています。お客さんからは、「他の農家の野菜と比べて味がとても良い」とか「吉実園で採れた卵ならアレルギー持ちの子どもに食べさせても大丈夫」などといった感想を頂いているそうです。また、愛知県や宮城県、山形県などの遠くの地域からはるばる吉実園に訪れるお客さんも多いです。鶏や豚、野菜の本来の味を消費者に届けることを大切にしている吉岡さんのこだわりが、多くのお客さんに受け入れられている証拠です。メディアの取材も多く受け入れており、NHKを始めとする主要なテレビ局、ラジオ局、さらには海外の新聞まで取材に訪れています。

自然と調和した生き方を

 吉実園を取材して感じたことは、自然や環境に対して配慮された様々な工夫が施されていたということです。ただ利益に重点を置いて生産をしているのではなく、環境に負荷をかけないで生産を行っている、そのこだわりが伝わってきました。鶏の放し飼いや、材木をチップ状にして再利用すること、有機肥料を使用して野菜を育てるといったことは、そのこだわりの一例にすぎません。

 現代人は自然に対して無頓着な生活を送りがちですが、ここで採れた農産物は有機農法で育てられた本当に美味しいものが多いので、普段の料理の材料に使ってみてはいかがでしょうか?素材本来の美味しさに改めて気がつくきっかけになるかもしれません。

吉実園 プロフィール

  • 住所:

    東京都世田谷区上祖師谷1-4-2

  • 電話番号:

    03-3300-1833

  • アクセス:

    京王線 千歳烏山駅より徒歩12分

  • 営業時間:

    9:00~17:00

  • 休業日:

    日曜 雨天

小辻 龍郎

アグリドットトーキョー編集部。元々農業とはあまり縁がない生活をしていました。農業や食、自然の分野で世の中をより良くしていきたいと思い、大学に入学してから農業サークルなど農業に関する様々な活動に取り組んでいます。都市農業を通じて農業の現場や課題が身に染みて実感中。最近ハマった野菜はトウモロコシ。

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