MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

自然に寄り添う農業(町田市・あした農場)

 京王多摩センター駅から20分ほど移動すると自然豊かな里山風景が目に入ってきます。そこは、「にほんの里100選」にも選ばれた小野路町。今回は、持続可能性を大切に自然に寄り添った農業を営むあした農場を訪れ、農場主である渡辺さんにお話を伺ってきました。

 食べること・飲むことが大好きでもともと農業・漁業に興味があった渡辺さんですが、以前は会社勤めをしていました。しかし、自身が歳を重ねた後もその仕事を続けていることがイメージできませんでした。そのような中、一生続けていくことのできる職である農業に出会い、2013年秋に渡辺さんご夫婦のもとであした農場は誕生しました。

自然豊かな里山風景

旬に逆らわない野菜作り

 「百姓入門−新装版 百姓入門―奪ワズ汚サズ争ワズ」の作者である筧次郎・白𡈽陽子ご夫妻のもとで、渡辺さんは野菜作りを学びました。人の健康だけでなく環境や次世代のことも考え、農薬・化学肥料を使用しない野菜作りに取り組んでいます。自分たちが死んだ後、数百年にわたってまで環境に悪影響を及ぼすような技術は使用せずに、より持続可能性を大切にした生活を心がける必要があります。そのような考えを持つ人たちに寄り添うことのできる野菜作りをしたいと渡辺さんは話します。

 加えて、「旬に逆らわない」ということも大切にしています。その時期の旬の食材を美味しく食べるということに本来の暮らし方・文化がある、と渡辺さんは考えます。無理して栽培・収穫をしたり、遠くの国・地域から作物を輸入したりするのではなく、今の時期には何を食べることができるのかということを考えます。また、それが結局は野菜本来の力を引き出し、美味しい野菜を消費者に提供することにつながっているのではないかと渡辺さんは考えます。あした農場ではこの考えがベースにあるため、定期のお客様には1年を通して美味しい野菜を届けられるような野菜の選別をしているそうです。

あした農場で栽培されている野菜たち

 渡辺さんがこのような考えに至ったきっかけは主に2つあります。師匠である筧次郎・白𡈽陽子ご夫妻の影響と、研修した年に起こった東日本大震災です。筧次郎・白𡈽陽子ご夫妻は、著書の中で、現代社会における「便利さ」「快適さ」のために「効率優先」「時間短縮」が追求されている一方、本当の意味での「豊かな社会」からは程遠くなっていることを指摘された方です。この考えに共感した渡辺さんは、農薬や化学肥料を使用しない昔ながらの自然に寄り添った農業がしたいと思うようになりました。

 2つ目のきっけである東日本大震災の時には、福島第一原発の事故の影響で茨城県にも放射能の影響が生じました。当時、多くの農家が風評被害等を被り、大きなダメージを受けたことがあり、これまで人間が「便利さ」「快適さ」を追求してきた代償は非常に大きなものであったと実感したそうです。これらの経験から、渡辺さんは自然に寄り添う農業をしていきたいと考えるようになりました。

作業中の渡辺さん

気軽に集まれる畑

 あした農場は「気軽に集まれる畑」を目指し、様々な取り組みを行っています。代表的なものとして、誰もが簡単に農業体験をすることができるプログラム「nou-fu」が挙げられます。農業体験「nou-fu」は、種まきから収穫に至るまでの農作業の一連の流れを1年間プロの指導員付きで体験することのできるプログラムです。農薬・化学肥料を使用しないというのが特徴的なプログラムで、1人ずつ割り当てられた区画内で年間約20種類の野菜を栽培することができます。1年を通し自分自身で野菜を育て食べることで現代社会において見えづらくなっている旬の移り変わり・四季を少しでも感じることができるのではないでしょうか。

 あした農場には農業体験「nou-fu」の参加者だけでなく援農ボランティアの参加者も毎週来ており、年間を通じて多くの人々が訪れています。渡辺さんはご自身が非農家出身であることもあり、畑に来たいと考える人がいれば断らない、「気軽に集まれる」をモットーにした農場を経営しています。

援農ボランティアの皆さん

地域の中の職場

 渡辺さんはJAの組合員、町内会やボランティア活動など地域との繋がりも大切にしています。前述した通り、渡辺さんはもともと町田市で農業を営んでいたわけではありませんでした。その経験から、見知らぬ人が地域で異色な農業を急に始めたら不安に感じる人もいるのではと感じていました。そのため、自分がどのようなモットーに基づいて農業を行なっているかを知ってもらい、地域の人々にアピールすることができる活動を積極的に行なっていくことは重要であると感じています。

あした農場の看板

 自然に寄り添う農業を営み、その取り組みや野菜に多くのファンを持つあした農場。農薬や化学肥料を使用しない農業は、「野菜を生産する」ことを主目的とした農業ではないため、他の農家さんに強く勧めることはできないと言います。しかし、渡辺さんは将来的にはこの「あした農場」で無農薬・無化学肥料での農業・作物栽培を続け、経済的に十分な採算を取れるようにしたいと考えています。さらに、「あした農場」が都市近郊の農家に対するモデルケースとなることを目標に日々邁進しています。

 みなさんもあした農場の美味しい野菜をぜひ召し上がってみてください。そして、持続可能性のある農業について考えてみるのも良いのではないでしょうか。

あした農場 プロフィール

森 柚香

アグリドットトーキョー編集部。津田塾大学学芸学部英文学科所属。大学入学後、農業とはあまり関わりの無い生活を送っていましたが、「農業サークルぽてと」に入会したことをきっかけに農業に興味を持ちました。趣味はダンスで、大学では「ぽてと」以外にベリーダンス部・ラーメン同好会に所属しています。アグリドットトーキョーでは今までの知識も活かしつつ、新しいことをどんどん吸収していきたいと考えています。

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