MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

有機農法を通じて、食べること・農業の楽しさを知ってもらうために(青梅市・繁昌農園)

 繁昌農園の繁昌知洋さんは東京都青梅市で新規就農をしてから、化学肥料・化学合成農薬を使用しない有機農法で伝統野菜を始めとする様々な野菜を育てています。お客さんからの評判もかなり良い繁昌農園の野菜は繁昌さんの様々な取り組みから生まれた賜物です。今回は繁昌農園の様々なことについて伺ってきました。

有機農家として新規就農した経緯

 繁昌さんは、学生時代には生態学や生命科学を学んでおり、人と自然が関わる仕事に就きたいと考えていました。大学卒業後数年間別の業界で働いたのちに、ご縁があって立川の農家と知り合うことができ、この農家の下で2年間研修をしました。元々地方での就農の可能性も考えていた繁昌さんは、この研修を通じて他の地域にはない東京農業の魅力(お客さんとの距離が近いこと、利便性が良く体験や教育の場所として利用しやすいなど)に気づいたそうです。そこで、東京都農業会議の紹介で、都内でも自然が多く残っている、多摩川上流の青梅市で新規就農することになったのです。

広い農業地帯の一角にある繁昌農園。

美味しい野菜の秘訣は土にこだわった有機農法にあり!

 繁昌農園の最大の特徴は、土にこだわった有機農法にあります。これにより、品種本来の味を活かした野菜作りをしています。繁昌さんが土にこだわったきっかけは、一般的に有機農法のデメリットとして挙げられる病害虫の発生対策でした。具体的には、土壌中の微生物や有用菌を強くしたら病害虫に強くなるのではないかと考えたのです。一例として、繁昌農園では堆肥やぼかし肥料(米ぬかなどの有機質肥料に土やもみ殻を加えて発酵させた肥料)を土壌にすきこんでいます。このような有機質肥料は、即効性のある化成肥料とは異なり、野菜の成長速度に合わせて徐々に効いていくため、野菜にかかるストレスが減少するといいます。また、お手製の乳酸菌溶液や納豆菌液を土壌に散布する工夫もしています。これにより、土にもともといる微生物を殺すことなく、病害虫に強い土作りを実現しています。

資材は利用していますが、化成肥料や化学合成農薬は使っていません。
納豆菌を使った養液。

 有機農法の効果は、単に美味しい野菜がつくれるというだけには留まりません。繁昌農園では季節に応じて収穫体験や植え付け体験などのイベントを行っていますが、このような農業体験で野菜の育て方の説明を行う際にも有機農法のほうが良いといいます。「化学肥料を与えれば野菜は育ちます」と単純に教えるよりも、有機農法の方が自然の生態系を交えながら教えられるのでとても教えがいがあるのです。このように有機農法に力を入れる一方で、資材や技術、調整作業の面といった慣行農法の優れた部分についてはご自身の有機農法に取り入れるよう努めており、より良い栽培方法となるよう常に模索しているそうです。

芽を出したばかりののらぼう菜。

 繁昌農園で育てている野菜は全部で120種ほどです。育てている品目も特徴的で、レタス・ネギ・じゃがいもといった一般的な品目から、カラフルな野菜、更には亀戸大根・金町小かぶなどの江戸東京野菜や、木曽赤かぶ・早池峰菜といった地方の伝統野菜まで実に幅広い品目を育てています。これらの野菜の販売先は主に個人宅配や地元の人々で、有機農法で育てられた野菜に興味を持っている人が多く、リピーター客もいらっしゃるそうです。

農業を広く発信していくために

 繁昌さんは、食や農業について多くの人に関心を持ってもらうため、農業体験やボランティアの受け入れを積極的に行っています。野菜の収穫時期やゴールデンウィーク中など作業量が多くなる繁忙期には、収穫体験に参加したい人やボランティアをFacebookなどで募集して、農に興味のある方々にも作業に参加してもらっています。このようにすることで、様々な方々に食や農に興味を持ってもらう良いきっかけになると同時に、多くの作業を皆で楽しみながらこなすことができるのです。イベントに参加した方々には繁昌農園で採れた野菜をもらえることもあるそうです。また、個人や企業向けに1日農業研修も行っており、ホームページ上で随時受け入れを募集しているので、興味がある方は是非一度参加してみてはいかかでしょうか。

春の訪れを感じる育苗ハウス。

 繁昌さんが農業を発信するためによく使用しているツールはFacebookです。個人用と農園用と二つのアカウントを使い分けており、個人用のアカウントでは日々の作業内容を中心として、農園用のアカウントでは農業イベントの告知や野菜を用いたレシピの紹介などを、それぞれ伝えています。Facebookのページは、どちらも多くの人々が興味を持ってもらえるような内容構成になっています。ホームページも開設しており、繁昌農園で収穫された野菜の宅配やイベントの申し込みをすることができます。

繁昌さんが考える農業の将来像

 繁昌さんは、有機農法を通じて農業の面白さ・食の関心を多くの方々、特に若い世代に知ってもらうようにしていきたいと考えています。農薬や遺伝子組み換え作物などの普及により食の安全性への関心が高まる中、有機農法で育てられた野菜は食の安全面という点で大いに安心できるでしょう。

 将来の農業のあり方の一つとしてIoTを利用した農業のハイテク化も挙げられますが、繁昌さんはそういった技術が一般化すれば積極的に導入していきたいと考えています。農園は基本一人で運営しているので、管理作業のIoT化ができれば特に導入していきたいそうです。

 新規就農してこの春で4年目を迎える繁昌さん。農作業は毎日の作業が異なるので、デスクワーク等に比べて飽きにくいということも農業の面白さの一つとおっしゃっていました。農業を新しい視点で捉えることにより、農業そのもののイメージが一新されることは、次世代の農業界が活発になっていく大きな原動力となります。今回の取材は、私自身も農業の将来像について深く考えられる良い機会となりました。

繁昌農園の挑戦は、まだまだ続きます。

繁昌農園 プロフィール

  • 住所:

    東京都青梅市富岡3-1050-7

  • 公式ホームページ:

    https://www.hanjo-farm.com/

  • 電話番号:

    080-5406-7654

  • アクセス:

    JR青梅線東青梅駅からバスで約30分乗車。岩倉温泉バス停で下車

小辻 龍郎

アグリドットトーキョー編集部。元々農業とはあまり縁がない生活をしていました。農業や食、自然の分野で世の中をより良くしていきたいと思い、大学に入学してから農業サークルなど農業に関する様々な活動に取り組んでいます。都市農業を通じて農業の現場や課題が身に染みて実感中。最近ハマった野菜はトウモロコシ。

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