MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

花卉生産農家が目指す「想い」の見える都市農業(清瀬市・横山園芸)

埼玉県所沢市、新座市と隣接し、多摩地域北東部に位置する清瀬市。横山園芸を切り盛りする横山直樹さんはそこでエディブルフラワー(食用花)の栽培を行っています。横山さんはSNSなどを中心に多くのファンを抱え、あまり日本に定着していない「花を食べる」という文化の普及に注力しています。今回はあまり知られていないエディブルフラワー栽培の全容とこだわり、そして横山さんの都市農業にかける熱い想いをご紹介します。

味を差別化する!エディブルフラワー栽培のこだわり

横山さんのエディブルフラワー栽培におけるこだわりは主に3点あります。 第一に広い場所ではなく、一株ずつ鉢に植えて育てていることです。横山園芸のエディブルフラワーは高級レストランなどで需要があります。そこでは小さいサイズのエディブルフラワーを求められるので、ニーズに合わせて鉢ならではのサイズ感を追求しています。

横山園芸のビニールハウス内の様子。中央にある壺状の装置が害虫を防除します。

第二に化成肥料や動物性堆肥を使わないことです。化成肥料を用いると苦みやえぐみが強くなってしまい、動物性肥料を用いるとまろやかな風味に仕上がりますが、害虫が発生しやすくなることが理由です。そのため牡蠣殻、骨粉、腐葉土などを肥料として栽培しているといいます。

第三にエディブルフラワーの生育環境に気を使っていることです。常にハウス内の空気を循環させ、害虫防除の装置を設置することにより、エディブルフラワーが健康的に生育できる環境を提供しています。生育環境に関する数々の工夫の中で特に記者の印象に残ったのが太陽光をうまく調節してエディブルフラワーの味を調える技術です。横山園芸ではビニールハウスに紫外線フィルムを貼っています。紫外線フィルムが日焼け止めクリームの役割を果たすことにより苦みやえぐみをコントロールしているのです。

また、ビニールハウスの建て方も独特です。本来は太陽光が満遍なく差し込み、台風への耐久性を持たせるために、ビニールハウスが南北方向を向くように建設するのが一般的ですが、横山園芸では東西方向にビニールハウスを設置しています。更にそのビニールハウスの全面ではなく一部分に遮光ネットを使用することで、日の当たる時間と当たらない時間でメリハリをつけていますこうすることでエディブルフラワーが軟弱にならないようにする効果があるそうです。「ハウス全面に遮光ネットを貼らなかったのは金銭的な事情もあります。ですがハウス全面に遮光ネットを貼ることにはメリットもデメリットも両方存在しますから、今のやり方も一つの手だと思っています。」

遮光ネットの様子。写真奥にあるのは後述する「レッドマジック」です。

こだわりのイタリアトマト「レッドマジック」

色とりどりのエディブルフラワーが咲き誇るハウスの中で、記者が目を奪われた野菜が「レッドマジック」という品種のトマトです。これは横山さんが海外・イタリアのナポリで名人と呼ばれる方の元まで出かけ、栽培方法を会得した品種で、種もナポリから取り寄せているといいます。当初は2列程度のみの栽培を想定していたそうですが、新型コロナウイルス感染拡大に伴う飲食店の休業要請の煽りを受けて、エディブルフラワーの注文が激減したことをきっかけとして、試験的に栽培規模拡大を試みています。 

レッドマジック。ほのかな甘みが絶品です。

レッドマジックは肥料、水ともにたくさん与えないといけないことに加え、栄養成長、生殖成長ともに気を使うトマトだそうです。「レッドマジックはとても栽培が難しいです。うちぐらい実の量を付けられるところはあまりないと思います。僕は負けず嫌いなので他の人が作れないと聞くと俄然やる気が湧いてきてチャレンジしたくなってしまいます。」横山さんは誇らしげにそう語ります。

レッドマジックの果肉。みずみずしく、まるでスイカのような見た目と食感でこの季節にぴったり。しっかりとした旨味が美味しかったです。
緑色のレッドマジックもあります!こちらは酸味も残る味です。

個性のある「等身大」の都市農業を目指して

横山さんは都市農業ではどれだけ個性を出せるかが求められると考えています。横山園芸では茎を長めにカットし、種類の違う花をブーケのようにまとめた後、水を吸わせたスポンジを巻き付けることによって、見た目、鮮度ともに高い評価を得るエディブルフラワーを販売しています。「やった方が良いと誰もがわかってはいたけど実現させてこなかった。」横山園芸の取り組みについて横山さんはそう語ります。このように生産では「味とサイズ」、販売では「見た目と鮮度」にこだわることで横山園芸は個性を表現しています。

横山園芸の商品のエディブルフラワー。鮮度保持のため、スポンジでしっかり水を吸わせており、しっかりと日持ちがします。ハーブと同じように、お花も種類によって異なる香りがするのも魅力ですね。

前述のように横山園芸の出荷先は高級レストランを中心とした飲食店がほとんどで、個人向けに販売を行っていません。それはプロの農家が一流の食材を生産し、プロの料理人がその食材を使用した一流の料理を作ることがエディブルフラワーの裾野を広げるのではないかと考えているからです。 「個人向け販売をするのもいいのですが、農家と消費者、つまり1+1=2だけでは面白くないなと思っています。同様に6次産業化もあまり視野には入れていないです。何故ならプロの料理人が横山園芸のエディブルフラワーを素晴らしい料理に昇華させてくれるのに、助成金をもらってわざわざ農家が加工までやるなんて本当に等身大なの?という思いがあるからです。そういった取り組みも素敵だとは思いますが、それよりも僕は花と向き合う時間を大切にしたいです。」

横山さんがそう語る理由は生産者の顔ではなく「想い」が見える農業を目指したいという気持ちが背景にあるからです。その想いが見えるのはやはり生産物の品質だといいます。本来農家は生産することが仕事だと考える横山さんは、加工はその道のプロに任せ、自身はより良い品質のエディブルフラワーの生産に集中することで己の理想とする農業に向かって邁進しています。

横山園芸では、植物のさらなる可能性を開拓するため、栽培の研究も行っているようです。

様々な選択肢がある都市農業

日本全国には生産から加工、販売というプロセスを一つの経営体で一貫して行う「6次産業化」に取り組む生産者の方々が多くいます。6次産業化には所得の向上、雇用の創出、地域の活性化など様々なメリットがある反面、結果として多額の投資や更なる労力が必要になるというデメリットも存在します。記者は、もっと6次産業化を行う方々が増えることにより消費者にも様々な製品が届けられるのではないかという気持ちがあります。 しかし、多様な側面を鑑みた上で、6次産業化を行わないという選択もまた一つの道ではないかとも思います。 いずれにせよ、飲食店や直売所を始め東京では、生食、加工品とその形を問わず一番新鮮な状態で農産物を楽しむことができます。そのことは非常に幸せなことに思えると同時に、東京の農業が遠く未来まで残り続けてほしいと切に感じさせられます。

お土産にエディブルフラワーをいただいてしまいました!SNSに載せれば、笑顔まで届けられそうな美しさ。

今回は横山園芸の取材にあたり、国立市「梨さとう園」の代表 佐藤英明様に横山さんをご紹介いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

横山園芸 プロフィール

  • アクセス:

    西部池袋線清瀬駅より車で20分程度 ※横山園芸は基本的に非公開です。

  • 公式Instagram:

    https://www.instagram.com/yokoyama_nursery/

  • 公式Facebookページ:

    https://www.facebook.com/yokoyamanursery/

  • 栽培品目:

    エディブルフラワー、イタリアントマトの他、クリスマスローズ、ダイヤモンドリリー、アネモネ、シクラメンなど
    横山園芸のエディブルフラワーはBASEからお買い求めください。

小林 子龍

東京農業大学農学部動物科学科所属。東京都出身。都内の農業系高校に通っていたことが農業に興味を持ったきっかけ。大学以外のコミュニティでも活動して視野を広げたいと考えぽてともっとに加わる。東京という畜産経営のハードルが高い環境下でどのように経営をしているのかを吸収し、発信していくことが目標。

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